140719
最近の区民オペラの水準の高さを如実に示す公演だった。愚亭がこれまでに出かけた区民オペラは荒川、江東、大田とこの杉並の4区のみだが、多分他でも同様の企画があるのだろう。どこも低予算で頑張っていて、頭が下がる思いだ。
杉並オペラは今回で10回目。会場の杉並公会堂大ホールは大変きれいでよく出来ているが、難を言えば、ロビー回りが窮屈なこと。恐らく敷地面積がギリギリで建てたものと思われる。そもそもオペラ上演まで考慮していないから、裏方の苦労は並大抵ではない筈。
客席前列の座席を潰してオケ空間を確保するのはよくあるが、そこに70人近いフル編成が入るから、まさにいっぱいいっぱい。プルトによる通常の楽器配置は無理で、ほぼ4人ずつ左右向かい合いで並べて、なんとか収まった印象。各演奏者にはきつい演奏になったろう。
なにせ「アイーダ」だから、小編成は不可。例の行進曲の場面では、正面奥の客席部分から客席に向かってトランペット、トロンボーンを演奏。(例のファンファーレ・トランペット、或はアイーダ・ドランペットと呼ばれる長いトランペットは使用されなかったようだ。)
最近、それほど珍しくなくなったが、これも日本語による上演。だが、ありがたいことに、日本語字幕も用意されていた。高齢者用と言う訳でなく、日本語であっても、歌われると聞き取りにくいことが多く、重唱や、オケの音響レベルが少し上がれば、とても聞き取れるものではない。字幕を出すなら、日本語でなくてもよいという理屈もあるが、ま、ここは総監督の意向を尊重しよう。
(でもね・・・アリアだけは原語でやって欲しかった、というのが本音。だって、原語の場合、きちんと韻を踏んで作詞されているのに、日本語訳ではそれがないことになるのだから。)
終演後にラダメスに聞いたら、日本語を覚えるのは特段どうということはないのだそうだ。さすがプロだ。「ただ、次、イタリア語、覚えられるかな」(笑)と冗談を言っていた。
限られた予算ゆえ、舞台装置、大道具類も極限まで絞り込まれ、舞台上は簡素そのもの。大きな門が2基あるだけ。これを前後左右に移動させ、後はエジプトの風景をプロジェクターで投影するだけだが、これが結構うまく雰囲気を醸し出すことに成功していた。
ラダメス役の青栁素晴さん、期待を上回る演唱で、大満足。後半トップギアにもっていくのが通例だが、この演目、いきなり聞かせどころの「清きアイーダ」が出て来るから油断できない。なかなか見事な滑り出し。最後の ・・・・vicino al sol は、ファルセット気味に軽く延ばしていたが、これはマエストロの指示か。ドミンゴやパヴァロッティ、デル・モナコは寧ろフォルテで延々延ばすが、最近のヨナス・カウフマンなどは、軽〜く、しかも余り延ばさないという対比が見られるから、ここは指揮者の好みなのだろう。
アイーダ役の森田雅美さん、初めて聴かせてもらったが、よく低・中・高音、おしなべてよく出ていたと思う。力負けはしていない、堂々たるアイーダだった。アムネリスの杣友恵子さん、もう何度も聴かせてもらっているが、アムネリスは彼女によく合っているように感じた。この方、大柄で、顔の造作も日本人離れしているから、こうした舞台ではよく映える。演技も含め、立派なアムネリスになっていた。
主役ではないが、寧ろ余り表舞台に登場しない巫女長役の前坂美希さん、久しぶりに拝見・拝聴したが、以前より声質が豊かになった印象。また派手な金色の翼をつけたコスチュームが、嫌でも目立ち、舞台によいアクセントを加えていた。後で伺ったら、翼の部分が相当重かったらしく、動きが大変だったとか。
開演に先立って、今回演出・振付を担当したイタリア人のダリオ・ポニッスィ氏から、本公演の解説があったが、劇中の有名なダンス・シーンでまさか本人がダンスに加わるとは。ちょっとしたサプライズで、少しばかり会場がどよめいた。
指揮の柴田真郁(マイク)氏、名前もお顔も、なんとなくあちら風だが、1978年、日本生まれの日本人。国立音大の声楽科を卒業後、指揮者に転じたとある。主にドイツで研鑽を積んだ新進気鋭の指揮者。
管弦楽は厚木交響楽団。アマオケである。それにしても、難曲相手によく頑張ったと思う。Bra~~viだ!冒頭にも書いたように、手作りオペラで、これだけ完成度の高い演奏にもっていくのだから、大したものだ。おつかれさんでした!!
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