141008 オーストラリア/中国/フランス/イギリス/香港合作。ナレーターはラッセル・クロウ。原題は"RED OBSESSION" 「赤い執着」ということか。赤はワインと中国の両方にかかってるんだろう。
それにしても、この邦題のつけ方よ!何が世界一美しいのか?ボルドーの筈はないし、秘密を指している訳では、もちろんない。ワインを指すのか。それなら”美しい”とは言わないし・・・。わけ分からん。ま、敢えて言えば、ボルドーのシャトーかも知れない。
ドキュメンタリー映画だから、わざわざ映画館まで足を運ばなくてもいい作品かも。ま、でもいつDVDになるか分からないしね。
これまで幾多の苦難を乗り越えて現在の繁栄を築いたボルドーだが、今また新たな”厄災”に見舞われつつある。これが”厄災”かどうか、立場によって意見の分かれるところだろうが、我々遠く日本から見ている者にはどうもそう見えてしまうのは仕方ないところ。
新たな”厄災”とは、古い言葉で言えば黄禍(既に漢字変換にも登場しない)。即ち、中国の新興富裕層による高級、それも超のつくワインの買い占めや、シャトーそのものの買収だろう。
映画では多くのワイン評論家や、、ワイン・ジャーナリスト、コレクター、ワイナリー経営者、多くはシャトー所有者に話を聞いているが、中にはそんな現状も止むなしとする声も。それにしても、ボルドーは嘗て英国が支配していた土地だからか、経営者も全員が流暢な英語を喋るのには驚く。(因みに上の一覧表の右下に、見慣れた顔が。彼は今ではナパバレーで名門イングルヌックを所有している。)
こうした心配をよそに、実は2011年が異常気候により、ぶどうが壊滅的は大げさにしても、相当の不作で、収穫時に大雨が降ったりで、近年では最悪の年となり、同時に中国からの需要も一気に減って、ワイン業者は泣き面に蜂状態。これで黄禍をやり過ごせると踏んでいる人もいて、全体としては、案外サバサバしている。
そりゃそうだろう。19世紀後半にはフィロキセラでフランスのぶどうはほぼ全滅という、それこそ開闢以来の大危機に見舞われたのに、それをも乗り越えてきたのだから。
最近のボルドーの当たり年は、61, 82, 09, 10だそうだ。しかし、8をラッキーナンバーとしてこよなく愛する中国人は08年ものに執着するとか。それで、彼ら用にボトルそのものに、八の字を、これまた彼らのお好みの赤で入れるサービスをしている業者もある。
ボルドーワインの中でも名門中の名門、シャトー・ラフィット・ロートシルトやラ・トゥールは、上図にあるメドックのポイヤックで少量生産される。中国人ビリオネアが欲しがるのはこれら二つのラベルに集中していて、他は見向きもしない。要するに投資対象で、飲むわけではないから、やはりこれはバブル状態だったわけで、それが沈静化したと見ればよいのだ。因みに、五大シャトーとは、以下を指している。
いかにも中国らしいと思ったのは、こうした超高級ワインの偽物がさっそく登場。ビンだけ確保し、偽のラベルを貼り付けて商売するというもの。ある女性ビリオネアが「レストランでこうした高級ワインを飲んだ後、ビンだけ貰って帰るの。でなければ、レストランに頼んでビンを割ってもらうか、どちらかね。」とえらそうに語っていた。
⬆️これも中国新興成金の一人。自宅にこうしたド派手なワイン棚を作って一人悦に入っている姿は結構笑える。この人、大人の玩具、いわゆる性具で一財産成した人物。「性具より今はワインだな」とさ。
ある中国人成金が、「ある日本人が、ボルドーのシャトーを買って、建物を解体し、日本に運んで組みなおしたことがあって、そうしたことは中国人はやらない」と胸を張っていたが、こんなデタラメを取り上げてもらっては困る!
エンディングは、ある名門シャトーの空撮。背景には灰色の雲が激しく流れていき、屋上の三色旗がコマ落とし映像らしく物凄い勢いではためくシーン。なにやら今ボルドーのワインが置かれている状況を暗示しているようだ、不気味である。
そして、この曲。Peggy LeeのFever。あら懐かしや、アンディ・ウィリアムスの姿も。
それにつけても、中国人の存在が高級ワインの勢力図までも塗る変えてしまう恐ろしさよ。
#83 画像はALLCINEMA on lineと本作の公式ホームページより。