ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「マンハント」@Netflix

201028 Manhunt: Unabomber 2017配信 全8話  米 Netflix Original

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実話に基づいた作品。1978年から20年近くにわたって全米を震撼(おおげさだが)させた爆弾男の話。当然日本でも報道されたのだが、なぜか当時の記憶にはそれほど鮮明に残っておらず、ゆえに本作の展開はかなりのインパクトを感じた。

Unabomberという犯人に対する世間の呼び名は、当初、標的に大学の教授や航空会社が多く含まれていたことから、University & Airlines Bomberとの説明あり。本作もご多分にもれず真実、裏切り、陰謀、愛、失意などが重要なキーワード。

関わった事件は16件、うち死亡3名、負傷11名という結果だから、凶悪犯と言われても仕方ないところだが、実はこの犯人、知能レベルが高く(高校時代に飛び級し、ハーヴァードではクラスメートより2歳若く、そのことが本人を苦しめることにもなる)、また風貌などからも、そういうみなされ方をされず、事件の全貌が知れるにつれ、一部にはむしろ同情的にすら見られるようになっていく展開がスリリングに描かれる。犯人、テッド・カジンスキーを演じるポール・ベタニーが実にうまい!!!

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モンタナ州リンカーン郡の山林に建てた小屋で発見、逮捕されたテッド。

追う側のFBI捜査官ジム・フィッツジェラルド(”フィッツ”)を演じるサム・ワージントンもまた素晴らしい演技を見せる。法言語、比較言語という切り口で、テッドが残した声明文にある言語特性、スペリングミスなどを指摘、長時間をかけた緻密なプロファイリングで、ぐいぐいと核心に迫っていく。

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捜査に没頭するあまり家族をも犠牲にすることになってしまうフィッツ、憂を帯びた表情のサム・ワージントンの演技が光る。

ところが、ジムの上司たちが実に凡庸で、ジムの非凡な才能に気がつかないどころか、それをあらゆく局面で否定するから、見ている側は実にイライラする。それでも、この男、腐ることなくついにホシを挙げる。ちゃっかりこれを自分の手柄にする上司の姿をテレビ画面で見て、さすがのジムも切れる。

犯人が残した声明文、「産業社会とその未来」(Industrial Society and its Future)は、産業革新で便利なものが登場すればするほど、人間は本質的なものを見失い、そうしたものを排除した生活に戻るべきという論旨に、むしろ同調するジムは、収監されたテッドと面談を重ね、彼の説得を試みるが。

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主役二人の名演技もみどころの一つ。

当初、令状の無効性を証明し、それで自分は無罪であると主張するテッドだが、精神異常を理由に無罪にしようとする弁護団と対立、彼らを解雇して自らを弁護するという挙に出る。裁判官はこれを認めず、結局、終身刑が確定、現在も服役中。

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弁護士と対立するテッド・カジンスキー(ポール・ベタニー

前回見たLINE OF DUTYも素晴らしかったが、本作も優れた脚本と主役たちの演技力に支えられた秀作である。