ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ヒトラーvs.ピカソ 奪われた名画のゆくえ」

210225 HITLER CONTRO PICASSO E GLI ALTRI 伊 2018 94分 監督:クラウディオ・ポーリ、進行:ナレーション:トーニ・セルヴィッロ

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ヒトラーピカソというタイトルにしては、ピカソの出番はほとんどない。

ナチスがその占領下にあっためぼしい美術館・博物館、また裕福なユダヤ人の住まいから大量の美術品・骨董品・家具などを強奪し、戦況が不利になると、それらを岩塩坑道や他の方法で秘匿したことは、すでにかなり明らかにされているが、依然不明の作品群も膨大な数(10万点とか)に登るらしい。こうした事実は、ドキュメンタリーや映画でこれまでもたびたび描かれているので、特に目新しいわけではないのだが、それでも本作で新たに知りうることが少なからず、ただ驚きの連続だった。

それにしても、取りに取ったり60満点とは!腹立たしさを通り越して笑っちゃうほど呆れるばかり。ヒトラー自身が絵画強奪に大いに熱心だったことは、つとに知られている。彼自身が画家を目指し、目指す美術学校の試験に2度も落ちたことで、やがて政治家を目指すことになったのは歴史の大きな皮肉だろう。合格していれば、ホロコーストなど、起きていなかった可能性が高いから、当時の試験官の罪は重いというしかない。

彼は出身地のオーストリアリンツルーブル級の美術館を作ることを夢見ていたらしい。ついでにナンバー2のゲーリングもどれだけの審美眼があったか分からないが、負けじと収集に熱心だったというから、今更ながらそろいもそろって罪深い連中だ。特にゲーリングは貴族に憧れ、すこしでも近づきたい一心で美術品蒐集に走ったというから、出自とは恐ろしい。

絵画ファンなら誰でも知っているような垂涎の泰西名画が次から次へと奪う側も、奪い返す側も、まことに無造作に扱う映像には、いささかの怒りを覚える。さて、奪い返しては見たものの、それをそのままどこかの美術館で展示したり巡回させるだけでなく、元の所有者へ正しく返還するという地道で気の遠くなるような作業が待っているらしい。所有者も世代交代しているし、長い長い道のりだ。

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イタリアの名優、トーニ・セルヴィッロが書斎と思しき場所で渋い語り口で紹介していく。