ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「奇妙なこと」@イタリア映画祭(朝日ホール)

230504 LA STRANEZZA 伊 2022 1h43m  脚本・監督:ロベルト・アンドー

確かにタイトル通り、奇妙な話です。とあるシチリアの村の駅に降り立った男、迎えに来てくれた男が暗い顔をしているので理由を尋ねると、「あんたの乳母のマリアが昨日亡くなったんだよ」と告げます。

この男、実はノーベル文学賞を取ったルイージピランデッロ(1867-1936)(トニ・セルヴィッロ)なのです。そしてこれから向かう彼の生家はアグリジェントにあります。親友の誕生日に招かれ、ついでに実家に寄ったところです。

さっそく埋葬の準備を始めると、担当役人がやってきます。ところが手違いで予定していた埋葬場所はすでに他人が埋葬されたばかり。さっそく役所に掛け合いに行きます。いつ準備が可能か尋ねると横柄な口調で1週間と。明日には友人が待つカターニアに発つ予定のピランデッロ、札束を役所の男に渡すと、「じゃ、今日の午後!」と。

そんなこんなで知り合った二人の墓掘り男、実は地元の村のアマチュア劇団の主催者で、台本書いたり演出したりしており、ちょうど稽古の真っ最中です。声をかけられた大作家のピランデッロも興味を惹かれて稽古を覗くことに。

そこから、思いもかけない展開が開けていきます。絵の中の絵、劇中劇、舞台と現実が渾然一体となるような、我々もそうした錯覚に見舞われます。

彼自身のヒット戯曲「作者を探す6人の登場人物」がキーワードになります。アンドー監督らしい、思わぬ視点から現実を切り取りながら、観る者を惑わします。

ちなみに終盤のローマの劇場の場面、使用された古い小ぶりな劇場はテアートロ・ヴァッレ(Teatro Valle)といい、ナヴォーナ広場近くにあります。

前半、素人役者の舞台稽古で、ちょっとおバカなおっさんが、みょうなところで区切りもんだから、会場も仲間の役者たちもその都度笑い転げます。Scopareという動詞、(部屋)を片付けるという意味のほかに、ちょっと卑猥な意味もあって、この部分、日本語字幕が見事に訳出するから、会場でも控えめながら笑いが起きました。

ローマに消えた男」(2013、原作・脚本・監督)、「修道士は沈黙する」(2016, 脚本・監督)も鋭い切れ味でしたが、こうした前作群を彷彿させます。いずれの作品でもトニ・セルヴィッロが主演を務めています。ちなみにアンドー監督自身シチリア出身(パレルモ)であることもこの作品を構想し始めた大きな動機だったと、映写後のトーク・ショーで述べていました。

左から通訳、ジュリア・アンドー(監督の娘)で、本作では重要な役で登場。

セルヴィッロ、眼光するどいのですが、突如柔和になり、その落差が楽しめます。

このイタリア語の通訳がすばらしかった!話術も巧みで、またチャーミング!

ごらんのようにゆったりとしたガウン状のものを羽織り、くつろいだ雰囲気。手には電子たばこらしきものが写っています。

ご覧のように質問はQRコードスマホで読み取って司会に送る方法。

ジュリア・アンドーに「お先にどうぞ!」とばかり軽やかな身のこなし。

袖に消えるまでこうして観衆の拍手に応えていました。

いつもは配信で楽しむことにしているイタリア映画祭、今回はトニ・セルヴィッロの舞台挨拶があると知って、ひさしぶりに会場へ。前から3列目に陣取れました。