ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「とあるテノール」のリサイタル@ルーテル市ヶ谷ホール

230918

まったくとんでもないテノールがいたものです。これまでずいぶん多くの、さまざまなタイプのテノールを聴いてきましたが、この人は大変失礼ながら新種、いや珍種ですかね。喉の構造は一体どうなってんでしょうか。恐ろしく高い音を、いともたやすく出せてしまうのにはたまげました。

ただ、その声質については、好みが分かれるところかも知れません。それと、この選曲がすごいです。よく暗譜したものと、なかば呆れます。ま、プロとしては至極当然なのかも知れませんけど。

共演者、ピアノ伴奏者、相当吟味して厳選されたようです。そんな印象を受けました。

前半に並んでいる歌曲、愚亭など、どれ一つとして知りません。どれも高音連発の作品です。中でも下のリスト作曲の「ペトラルカの3つのソネット」という、20分を超える作品は、超高音の連続で聴く方も相当やばいです。

このように、元の歌詞と対訳が丁寧に掲載されています。歌詞の意味をしっかり汲み取って聴いてほしいという彼なりの意図が見て取れます。

この人、ちゃめっけたっぷりで、随所にそれが散見されました。下の作品解説の中に突然肉筆風にイナバウアーとあるのもその現れの一つです。2006年トリノ・オリンピックのフィギュアスケートで話題になりましたからね。

ところで、ゲスト出演されたソプラノの野田ヒロ子さん、相当以前から大注目の方で、とにかく上手い!今宵歌われた中では、下の解説にある「亡くなった母を」がとりわけ心に響きました。ソプラノにしては、かなり中音多用の作品ですが、豊かでふくよかな響きがなんとも心地よかったです。

トム・ハンクス出演の法廷ものの名画「フィラデルフィア」の中で、マリア・カラスの録音で結構長く流れて、その時も強い感銘を受けました。コンサート進行の方も、そのことには触れていました。

彼のちゃめっけぶりの極め付けは、一番最後に歌った↑この曲。場内、さんざん笑い声に包まれました。さらにはITにも関心が深いようでして、こんなペイジもありました。↓

この歌の後に、アンコールとして野田ヒロ子さんと「BE MY LOVE」を歌われました。この曲は1950年製作のハリウッド映画「ニューオーリンズの美女」(The Toast of New Orleans)の中で歌われ、映画よりこの歌が有名になりました。ちなみに歌ったのは主演のキャスリン・グレイソン、そしてイタリア系アメリカ人のオペラ歌手、マリオ・ランツァです。

さらに、最後にもう一つだけとして、なんと自らピアノの弾き語りという離れ業!曲名はトスティの「暁は光から闇を離す」(L'alba separa dalla luce l'ombra)

愚亭には忘れえぬリサイタルとなりました。