220615
迷った末、やはり観ました。すっごい舞台でした。これでもかっというほどに。そりゃあのフランコ・ゼッフィレッリの舞台ですからね、豪華でないはずがありません。彼は亡くなっていますが、その伝説的な舞台はこうして引き継がれていくわけです。この豪華な装置は、35年間も続いている舞台担当者が話していました。この舞台は作り上げるのに45分もかかるという曰く付きのもので、普段はどこやらにコンテナごと保管していると。
さて出演陣ですが、興味があったのが、カラフをやる韓国人です。ヨンフン・リーという名前はまったく馴染みがありませんが、すでに世界の檜舞台で活躍しているバリバリのスピント系テノールだそうです。2011年には来日公演も果たしているとか。
METの舞台に主役で登場した初のアジア人男性かも知れません。すくなくとも日本人は男性では誰も出演していないと思うのですが。東アジア人という括りで言えば、ちょっと面はゆいというか嬉しい反面、日本人じゃなかったという悔しさも若干。
よく出ていましたね、高音が。ただ、お上手ですが、個性というか声に特徴があまりないという印象でした。ま、でも幕間のインタビューもきちんとこなしてましたし、大したもんです。
さてタイトルロールですが、これがなんとウクライナ人。リュドミラ・モナスティルスカという、絶対に覚えられない名前のソプラノでした。元々はアンナ・ネトレプコの予定でしたが、ロシアのウクライナ侵攻で、総支配人のピーター・ゲルプがいち早く反応して、ネトレプコを下ろしちゃったんですね。そこまでやるのか、って感じがしないでもないですが、ウクライナ支援のエネルギーの強さを感じた一連の動きでした。ゲルプの奥さんはカナダ出身の指揮者ですが、両親のどちらかがウクライナ出身とか、まあ、そんな個人的な理由も働いたんでしょうか。
このリュドミラさん、でっぷりとしていて、いかにもトゥーランドットという感じで、声もたっぷり、無理せず自然に出ちゃうという感じの、まあドラマティック・ソプラノというんでしょうかね。カーテンコールでは、衣装の上に例のウクライナの国旗を纏って登場、客席のあちこちにも国旗が見られて、支援の輪が広がっているという雰囲気を盛り上げていました。
リューを演じたソプラノはアルバニア人のエルモネラ・ヤホで、この人が上手かった!卓抜した演技とともに、超高音の美しさたるやハンパなかったです。
そもそもリューというのは得な役で、有名なアリアを二つも歌うわけで、前半に「聴いてください、王子様」(Signore, ascolta)、そして終演近くでは「氷のような姫君の心も」(Tu che di gel sei cinta)と、どちらも超美しい旋律が含まれ、耳に残ります。その点、トゥーランドット姫には歌う量は圧倒的に多いのに、演奏会などで単独で歌われることのないアリアしかないので、その意味では損な役どころかなんて思ってしまいます。
他に、レジェンド級のバリトン、フェルッチョ・フルラネットがティムール役で出ています。聴かせどころがそれほど多くはないのがちょっぴり残念ではありますが、その割に大変印象に残る存在でした。
さあ、お次は新演出による「ランメルモールのルチア」を楽しみにしています。今回、インタビューアーを務めたネイディーン・シエラがルチアを演じます。