ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「内なる檻」@イタリア映画祭

220601 ARIAFERMA (止まった空気、英語タイトル:THE INNER CAGE)2021 イタリア・スイス合作、2時間、脚本(共)・監督:レオナルド・ディ・コスタンツォ

今年のイタリア映画祭も劇場は敬遠、配信で見ることにしました。かなり地味な作品ですが、トーニ・セリヴィッロシルヴィオオルランドが共演することに興味を覚えて、本作を真っ先に見ました。期待にたがわず良い作品でした。

舞台はサルディニア島の山間にある閉鎖寸前の刑務所です。この設定からして、暗い内容を覚悟しました。閉鎖にともない、収監中の囚人たちはそれぞれ何組かに別れて別の刑務所に移送されるわけですが、手違いでどうしても収容しきれない者が12名。

刑務官たちは、これでこんな辺鄙なところから解放されるとあって、最終日は鉄砲打ちに興じて戻ると、所長から「悪いけど、あんたたちさぁ、あと数日だけ残ってくれない?悪いわね。」と翌朝他の刑務官たちと去っていく女所長。残された刑務官たちは憮然と仕事に戻るしかありません。

囚人VS.刑務官、ほぼ同数ですからね、こりゃきっと何か不穏なことが起きるに違いないと思わせます。いかにもそういう雰囲気ですから。囚人たちも多種多様、悪そうなのがいるんですよ、必ず。お漏らししちゃう爺さんがいるかと思えば、これが囚人?と思えるような優しい若者がいたり。

数日間のことだからと、食堂も閉鎖、キッチンはあっても食材なし。作り置きの弁当だけですよ、囚人も刑務官も。イタリアらしいと思ったのは、この冷えた弁当が配られると、こんなもん食えるかと騒ぎ出し、一種のハンガーストに入りそうな気配。

シルヴィオオルランド(左)とトーニ・セルヴィッロ

今やイタリア映画界を代表する名優二人は囚人役と刑務官役に分かれます。笑顔を一切見せない刑務官ガエターノは所長代理として、あれこれ指示を出します。ハンストをやられるのはまずいと踏んで、元料理人で囚人側の代表格であるラジョイアの提案もありキッチンで料理させることに。野菜は彼の発案で近場に育っているのを適当にさがしてきます。

これが囚人たちから大好評、刑務官もお相伴にあずかります。囚人がつくったものを俺たちが食うって、そりゃないぜ、と拒む刑務官もいたりしますが。

このラジョイア、あきらかに他の囚人たちとは違う落ち着いた雰囲気で、自然にリーダー格になっちゃっています。彼が、じつはどこかで何かを引き起こすのでは、とずーっと疑い続けますが。というのも、こういう場面もそうですが、なんどかそんなチャンスが描かれていますから。

ある夜、停電になり、スワっと緊張が走ります。真っ暗闇でメシを食えってかぁ!とまたまた大騒ぎする囚人たち。万一に備えて、警察官たちを待機させます。懐中電灯をあるったけ集めて、中央棟の真ん中に、各自デスクをもちより、ちょっとした食卓にしてラジョイアの料理を食べさせます。すると、刑務官のみなさんも一緒にどうですか?と。

当初、むっつりと相変わらず渋顔のガエターノは黙って着席、ほかの刑務官もこれにならいます。かくして前代未聞の囚人&刑務官の晩餐風景となります。得てしてこういう時が一番危ないので、見ている方も緊張します。ところが、なにもないんです。囚人側からヴィーノでもどうですかね?なんでここにヴィーノがあるんだという声をよそに、これも黙認となり、闇鍋ならぬ華やいだ食卓に。

とまあ、こんな具合に進行して、その数日間が過ぎ、移送となります。これで終わり?って思うかも知れませんが、なんかいいんですよ、この人間同士の向き合い方、寡黙な中にも雄弁に語られる彼らの心象風景みたいなものまで見えてきて、ひさしぶりにイタリア映画の佳作に出会えました。

なにごともなかったように、淡々と移送されていく囚人たち。撮影はサルディニア島サッサリ近郊の実際の刑務所を使ったようです。