ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ルチア」@METライブビューイング

220706 ここで何度も取り上げているこのシリーズ、今回は「ランメルモールのルチア」の現代版。舞台はスコットランドから現代アメリカのラストベルト(デトロイトらしい)へ。それで、舞台には乗用車やピックアップ・トラックがいくつも並んでます。

フロリダ出身のネイディーン・シエラ。名前からしてヒスパニック系。

現代に焼き直すスタイルは個人的にはあまり好きではないですが、これはツボにはまりましたね。まったく違和感なく、没入しました。なんといっても主役のネイディーン・シエラの歌唱です!これほどまでに生きのいいソプラノ・スピントはなかなかいないと思いますが。

前回、「トゥーランドット」を見た時は楽屋裏でインタビューアーとして登場していましたが、ラテンの血なのか、めったやたらに明るい娘です。幕間インタビューでは共演のメキシコ出身のハビエル・カマレーナとすっごく相性がよかったのはラテンの血かもね、と二人で大盛り上がりでした。

マレーナは、今や世界でもトップクラスのテノールに上り詰めた印象ですが、シエラに相手では脇役でしかありませんでした。それぐらい、シエラの登場は圧巻でした。歌も演技も顔もスタイルも、もはや何もかもに唸りました。

例の狂乱の場「香炉は燻りて」は20分以上にわたって独演が続くわけですが、相当ハードな演技・歌唱の連続ですが、本オペラの最大の見せ場・聞きどころですからね。彼女の前ではこれほど難しいシェーナでも楽勝って感じでした。

あらすじは以下の通り。(METライブビューイングのHPから)

16 世紀末(新演出では現代アメリカの衰退した地方工業都市)。アシュトン家のエンリーコは、家の存続のために妹のルチアを政略結婚させようとしているが、ルチアは敵方のエドガルドと愛し合っていた。それを知ったエンリーコは、エドガルドが別の女性を愛しているという偽の手紙でルチアを騙し、強引に結婚式を挙げるが、その席にエドガルドが乱入。ルチアが署名した結婚証明書を見たエドガルドは、ルチアを罵倒して去る。絶望したルチアは正気を失い、新婚の床で夫を刺してしまう…。  text by 加藤浩子

部隊はこのように上下に分割して映像も重要な役割を。

今回も実に凝ったセットデザインでした。さらに回り舞台を効果的に使用していて、この立体的な演出が大変効果を発揮していたと思います。

オペラの舞台では珍しくかなり濃厚なラブシーンも含まれています。

ルチアの兄、エンリーコ役のアルトゥール・ルチンスキーバリトン)がまたすごかった!ものすごく息の長〜〜いアリアを歌って、喝采・ブラーヴォ、延々。このシーンでは、ルチアを騙して、無理やり政略結婚をあげさせようとしています。ルチアの不安の表情が、あとの惨劇の伏線になっています。

そして数あるオペラの中でも超有名な場面、狂乱の場が始まります。これを完璧なまでにうたってしまったシエラの底知れぬ可能性に驚くのみ。これでもかというほどのスプラッシュ演出にはちょっと引いてしまいましたが。なにせ20分も続くわけですから、さすがに若いシエラも相当息が上がってた筈です。

この後にエドガルド(ハビエル・カマレーナ)の、これまた有名なアリアが「わが祖先の墓よ」で、ざわついた場内が静まり返ります。カマレーナはいかにもメキシカンという風情でちょっと見た目が軽く、ヴィジュアル的にはこの役には不向きでしょうが、声質がぴたりとはまります。

今回もまた舞台の豪華なセットに目を奪われました。METでしか出せないこのスケール、前回のトゥーランドットに続き打ちのめされました。ああ、やはりMETは素晴らしすぎる!

なお、写真はMETライブビューイングのHPからお借りしました。